< No.20 没頭 >

嗚呼一寸御免其れは其処へ置いておいて


其処の君君だよ君そうそう君
悪いけれど僕の代わりに其のお茶を飲んでおくれ
今は手が離せないので毒見も出来ない寸法さ
冷めているかどうかなんて聞いていないよ


電話の電鈴が鳴った処で腰は椅子から離れない
御令嬢が視察に来ても其れは変わりっこない事さ
何せ僕は大層大事な仕事に取り掛かって居る訳で
其れはもう西欧の茶器になど構っては居られないのだよ


解るだろうそう物分りの良い君にお茶は任せて
ついでに君僕の為に夕飯の用意を頼むよ
是の仕事が終わったら頂くつもりさ


何時になるかなんてそんな事を聞かないでおくれよ
其の計算に使う時間はないものでね
何しろ今は朝だから是から始めれば丁度良かろう
けれども外が暗いのはカーテンの所為だろう


嗚呼君少し黙っていてくれないか
僕はとても大事な仕事を


そうそう其れが良い
一人にしておくれよ
嗚呼何処へなり行っておいで
僕の夕飯迄には支度を頼んだよ


何処へ行くか何て伝言は猫にでもしておくれ
僕は其のお茶を後で頂くから


嗚呼君一寸待って
眩しいからカーテンを
おやもう出かけたのか


何て素早い事だろう