< No.71 幸福 >
昔々、ある村に羊飼いの少年がいました。
少年は毎日毎日、沢山の羊を見張る仕事をしていました。
毎日毎日同じことをしているだけなので、ただただ退屈です。
あまりに退屈なので、少年はふと思いました。
(僕が今叫んだら、誰か来てくれるだろうか)
(どんな風に叫んだら、誰か来てくれるだろうか)
そこで、こんな風に叫びました。
「おおかみが来た!おおかみだ!羊が食べられてしまうよ!!」
すると、村人達が手に手に武器を携えて走ってくるではないですか。
少年はそれを見て、愉快愉快と笑いました。
村人達が何度も何度もだまされるので、少年は可笑しくなって何度も何度も叫びました。
そうこうするうち、少しずつ、少しずつ、駆けつける村人の数は減っていきました。
そして最後の一人がこう言いました。
「もう誰も、お前のことを信じまい」
少年は、信じられないことなど慣れっこでした。
元々少年は一人ぼっちで、誰にも信じてもらったことがなかったのです。
ですから、本当におおかみが来た時、少年は一言も声を出す事はありませんでした。
だれも自分を信じてくれないことなど、とっくに解っていたからです。
そして、その村には、少年と羊がいなくなりました。
昔々、ある村に羊飼いの少年がいました。
少年は毎日毎日、沢山の羊を見張る仕事をしていました。
村人と話もせず、市場に行くこともなく。ずっと羊を見ています。
毎日毎日同じことをしているだけなので、ただただ退屈です。
あまりに退屈なので、少年はふと思いました。
(どうして僕は羊を見ているのだろう)
そこで、少年は旅に出ました。
村人達は、長いことこの少年と話しをしていなかったので、少年がいなくなったことに気付きませんでした。
そしてある日、おおかみがやってきて、羊たちを全部残らず食べてしまいました。
そして、その村には、少年と羊がいなくなりました。
昔々、ある村に羊飼いの少年がいました。
そして、その村には狩人がひとりいました。
少年は毎日毎日、沢山の羊を見張る仕事をしていました。
毎日毎日同じことをしているだけなので、ただただ退屈です。
あまりに退屈なので、少年はふと思いました。
(僕が今叫んだら、誰か来てくれるだろうか)
(どんな風に叫んだら、誰か来てくれるだろうか)
そこで、こんな風に叫びました。
「おおかみが来た!おおかみだ!羊が食べられてしまうよ!!」
すると、村人達が手に手に武器を携えて走ってくるではないですか。
その中にはあの狩人もいました。
少年はこの気の弱い狩人が好きでした。
狩人は真っ青な顔をして、嘘をついた少年を見詰めました。
少年はそれを見て、愉快愉快と笑いました。
村人達が何度も何度もだまされるので、少年は可笑しくなって何度も何度も叫びました。
そうこうするうち、少しずつ、少しずつ、駆けつける村人の数は減っていきました。
そして最後の一人がこう言いました。
「もう誰も、お前のことを信じまい」
そしてある日、本当におおかみが来ました。
おおかみは大きな身体で羊を押しつぶし、鋭い牙で肉を抉ります。
少年は怖くて怖くて、動くこともできず声も出せませんでした。
するとそこに狩人が走ってきました。
狩人は震える手で銃を構え、一発、二発、と撃ちました。
銃口から飛び出した鉄の塊が、肉を裂いて身体の奥深くへと突き刺さります。
痛みの余り叫び声を上げて、撃たれたおおかみはどう、と地面に倒れました。
おおかみの恐ろしい叫び声に紛れて、少年の最期の言葉も聞こえませんでした。
狩人は真っ青な顔をして、最後にもう一発、銃を撃ちました。
そうして、その村には、少年と狩人がいなくなりました。
昔々、ある村に羊飼いの少年がいました。
少年は毎日毎日、沢山の羊を見張る仕事をしていました。
毎日毎日同じことをしているだけなので、ただただ退屈です。
けれども、少年にはもう一つ仕事がありました。
時々村にやってくる旅人に、羊の乳で作ったチーズと、干した肉を売るのです。
その旅人は口数も少なく、無愛想でしたが、いつもお金と一緒に旅先の品を分けてくれるのでした。
ある時は海底の珊瑚、ある時は山奥の古杉、ある時は溶岩の欠片、ある時は…。
少年はただただ毎日、ずっと、ずっと、旅人が来るのを待っていました。
羊の群れに囲まれながら、
旅人が訪れる日だけを待ち望んで、
今も、ずっと……