< No.99 タブー >

我等の愛すべき皇女様。

貴女は走ってはいけません。
美しい足に傷がついては大変だから。
壊れやすい心臓にひびが入っては大変だから。



我等の愛すべき皇女様。

貴女は怒ってはなりません。
何時如何なる時も安らかに微笑んで。
ほっそりとしたその身体は常に穏やかに。



我等の愛すべき皇女様。

貴女は歌ってはなりません。
お話声は涼やかに風を含みながら。
転がるようにけれども音律をつけず淑やかに。



我等の愛すべき皇女様。

貴女は眠ってはなりません。
この国の全てを常に見晴らし民を思い。
彼らが見上げる時必ずそこに貴女が在るように。


そうすればそうすれば。
我等は日々を生きていけましょう。
灰と瓦礫に埋もれた町も
何時しか光り輝きましょう。




我等の愛すべき皇女様。

我等の愛すべき皇女様。

貴女は愛されてはなりません。
貴女は愛してはなりません。

誰か一人のものにならないように。
全ての民と臣に平等に慕われ彼らを労わり。

そして国が滅ぶときは共に手を携えて歩むのです。







そう教わってきた小さな皇女が
いつか誰かと恋に落ち
腰まで伸びた髪を切って
国の外へと逃げ出した。







だからこの国は滅んだのだと
御伽噺に聞かされて。

育った私は明日の朝
貴方の手を取り逃げていく。