僕は初めて小学校で
黄色のマーカペンをもらいました。
それを紙につけて横へ引くと
驚くくらい綺麗に線が引けます。
少し斜めにすると
また違う細さで。
マーカペンというくらいだから
何か印をつけなきゃなりません。
学校の帰り道には
大きなお屋敷があります。
外側の壁はレンガで
どこまでも長く伸びていました。
僕はそこに這う蔦が好きで
いつもそれに触っていたので
今日は背の高さの蔦に
みんな印をつけました。
次の日は目の高さのところに。
次の日は頬の高さに。 次の日は肩の高さに印をつけました。

緑の蔦は少し黄色くなって
なんだか不満そうにしています。
僕はそれを見て
マーカという言葉の意味が
解ったような気がしました。

ある日、マーカペンで蔦をなぞっていると
黒い長い髪の女の人が
レンガの内側から出てきました。
マーカペンを握る僕を優しく叱って
その人は言いました。
『綺麗なものは綺麗なもので
 そのままにしておきなさい。
 綺麗なものをみて汚したいと思ったら
 それは君が大人になったとき。   』

だから僕はあした
あの人の長い黒い髪に
マーカを引きたいと思います。

先生、新しいマーカペンを下さい。