-Fabel  01-



 左手をかざせば、腕に光る直径1p半の円盤。長針と短針と細い三角が規則正しく動いて、左から右へ廻って行く。
 「何それ」
 「時計」
 ふぅん、と気のない返事を寄越しながら、彼女は僕の隣へ座った。手にしたアイスクリームを一齧り。
 「食べる?」
 「ミントチョコは嫌いだってば。嫌がらせ?」
 「あそう。ごめん。じゃあチョコチップ」
 反対の手から差し出された、バニラアイスとチョコレートの塊を受け取って口に運ぶ。
 「何処で買って来たの」
 「これから買いに行くの」
 「僕がこれが良いって言ったの?」
 「違う。ラムレーズンが売り切れ」
 立ち上がってジーンズの尻を払いながら、僕は溜め息まじりに言った。
 「別の店に行こう」
 良いわよ、と答えて、彼女は小さく笑った。
 左手で短針がカチリと鳴る。


 25種類のアイスクリームを揃えていることが自慢の店は、安易な名前と看板で何処にでもあった。
 店に着く頃には、僕らは互いにアイスを食べ終わっていて、他愛もないお喋りを続けている。
 「ラムレーズンとミントチョコ一つずつ」
 「ごめんなさい、ラムレーズンは品切れなの。抹茶ミルクは如何?今月のお勧めよ」
 柔らかな笑顔の店員を前に、溜め息の僕とクスクス笑いの彼女。
 「じゃあ、それ下さい」
 緑のアイス2つとコインを取り替えて店を出る。彼女は2つのアイスクリームを持って、バイバイ、と僕に言った。
 「何回アイス食べるつもり?」
 「ラムレーズンがあたるまで」
 まだクスクスと笑う彼女を軽く睨んで、僕は溜め息まじりに呟いた。
 「さっきの僕に、ご愁傷様って言っといて」
 「それ聞くの4回目」
 じゃあね、と踵を返して、彼女は戻って行く。
 僕は無意味な時計を一撫で。
 ラムレーズンが当たるまで、今日の彼女はアイスクリーム。
 「僕はどうするかな」
 歩いて行けば明日の彼女に会えるだろうか。取り敢えず日暮れ辺りまで散歩にしよう。
 左腕で長針がカチリと鳴る。