-Fabel 02-
「ハイ、久し振りね」
「…さっき会ったよ」
図書館の前で自転車の彼女に会った。買い物籠からフランスパンが飛び出ている。
「いつの私?」
「アイスクリーム」
「ああ!」
手を打って笑いだす彼女と並んで、僕はゆっくりと歩き出した。
「あの後何回目でラムレーズンは当たったの」
「あなた、5回目のあなた?少なくとも私、7個もミントチョコを食べたわ」
「…せめて違うのにすれば良いのに」
「あなたがいつもミントチョコを買ってくれるからよ」
何とかの一つ覚え、と笑う彼女を軽く睨んで、僕は片手の本を自転車に乗せる。
「久し振りって、君は何処からきたの」
「最後にあなたに会ったのは教室よ。冬休み前」
「今夏休みだよ」
そうね、と何でもない風に彼女は笑う。相変わらず無茶苦茶な時間の歩き方だ。
「いいじゃない。時間なんて無限にあるもの」
いつもの台詞を口にして彼女は笑う。
肩をすくめて、僕はフランスパンを一口千切った。
「ちょっと」
「良いじゃないか。どうせ僕らの夕飯だろう?」
瞬きをして、彼女は首を傾げた。
「あなた、どこの帰り?」
「ビデオに集中しすぎて、シチューを焦がさないようにね」
憎まれ口だわ、と言いながら彼女は頷いた。少なくともこれで、シチューの口直しにラムレーズンが食べられないことは無くなる。
手を振って自転車を見送った。これから僕らはホラービデオを見て、彼女の(焦げていない)手作りシチューを挟みながら昔話をするのだろう。
『ねぇ、覚えてる?ラムレーズンが当たらなかったこと…』
次は何処へ行こうか。冬休みの教室も悪くない。
「…大学かな」
高校生には見えなかった彼女は、僕が去年あげた口紅をしていた。
そろそろプロポーズに行くのも悪くない。
指輪の代わりに時計をあげて、これからは散歩より僕と居て欲しいと言ったら、彼女はどんな顔をしただろう。
そういう可能性も、悪くない。
左腕の時計を一撫で。骨董品の店にはまだ、赤い指時計があるだろうか